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松山家庭裁判所八幡浜支部 昭和36年(家)68号 審判

申立人 上野サヨ子(仮名)

事件本人 上野トミヨ(仮名)

主文

八幡浜市役所備付の八幡浜市○○○○番地上野亨原戸籍中亨の身分事項欄の妻トミヨの死亡事項及び同原戸籍中トミヨの死亡の届出による死亡の記載を夫々消除して同戸籍に回復し、さらに同市○○○○番地上野亨新戸籍に回復することを許可する。

理由

申立人は主文同旨の審判を求め、申立の実情として、事件本人は死亡した事がなく現に存命中であるのが事実であるに拘らず、同人及び同人の親族ら不知の間に、同人は昭和三十三年三月四日午前五時零分広島県双三郡三和町大字羽出庭○○○○番地の○で死亡した旨河村勇作によつて届出がなされ戸籍の該当欄にもその通り記載され除籍されるに至つた。然しながらこれは真実に合致しないから真実に合致するよう主文のとおりの許可を求めるため、本申立に及ぶと申述した。

よつて按ずるに申立人提出の本籍八幡浜市○○○○番地筆頭者上野亨原戸籍謄本、同人の新戸籍謄本、申立人及び事件本人の各審問の結果、参考人山田一弘、石岡明教各審問の結果、本件の死亡届及死亡診断書の各原本八幡浜市選挙管理委員会委員長田村和助作成の選挙人名簿に登録されている旨の証明書、当裁判所の医師佐々木喬に対する照会回答書、愛媛県喜多郡内子町長藤井政一の昭和三十六年七月十二日付回答書、本籍喜多郡内子町大字大瀬末○○○番地筆頭者上野亨の除籍謄本、本籍同郡同町大字大瀬末○○○番地筆頭者川本トミヨの戸籍謄本河村勇作の住民票、同人の除籍謄本、及び広島家庭裁判所三次支部の嘱託回答書を綜合すれば次の事実が認められる。即ち、

(1)  事件本人は夫上野亨と昭和十六年七月五日婚姻をなし爾来今日に至つている者で、健在であり野菜商兼農業を営み居り、昭和三十五年十一月の衆議院議員総選挙に際しても選挙権を有しこれを行使した。申立人は事件本人の長女である。そうして事件本人の戸籍はもと愛媛県喜多郡内子町大字大瀬末○○○番地にあつたが昭和三十一年十二月十日八幡浜市○○○○番地に転籍した。事件本人は喜多郡大瀬村今岡で出生以来今日まで広島県に赴いたこともなければ本件死亡届出人河村勇作なる人物も知らない。

(2)  件外川本トミヨ(本籍愛媛県喜多郡内子町大字大瀬末○○○番地明治二十五年七月○○日生)は本件死亡届出人河村勇作と広島県双三郡三和町大字羽出庭○○○○の○において内縁関係にあり同居していたが、昭和三十二年七月十日頃より発病し、昭和三十三年三月○日午前五時頃胃癌により右住居において死亡するに至つた。

そこで右河村勇作が同月五日同女の死亡届を右三和町長に対して届出したがその届出書には死者の本籍を「愛媛県喜多郡大瀬村字○○」と戸籍筆頭者氏名を「川本トミヨ」と死者の氏名を「川本トミヨ」とその生年月日「明治二十五年七月○○日」と記載し、これには添付の死亡診断書に医師佐々木喬は死者の氏名を「川本トミヨ」と記載した。(河村勇作は死者川本トミヨの正確な本籍を知らなかつた模様である)そうしてこの死亡届が昭和三十三年四月十日喜多郡内子町役場大瀬支所に送付されたが、同支所係員においてこれを見て、昭和三十一年十二月十日八幡浜市○○○○番地に転籍した、事件本人上野トミヨ(転籍前の本籍喜多郡内子町大字大瀬末○○○番地)に関するものと誤解し、直ちに八幡浜市役所にこれを転送し、同市役所係員においても同様の誤解をし、死亡届書の死者の本籍、その筆頭者氏名、死者の氏名、生年月日、死亡診断書の死者の氏名が事件本人のそれらと違うので、事件本人のものに合致するよう訂正することを指示した符箋を附して死亡届書を三和町役場に送り返したので三和町役場係員は右指示を真実に合致するものと誤解し、右指示通り死者の本籍を「愛媛県八幡浜市○○○○番地」と、その筆頭者を「上野亨」と死者の氏名を「上野トミヨ」と、その生年月日を「明治二十四年五月○日」と死亡診断書の死者の氏名を「上野トミヨ」(川本と記載してある箇所をゴム消し様のもので抹消したうえ上野と記載した。これについては作成者医師佐々木喬の丁解は得なかつた)と訂正し、八幡浜市役所に送付した結果事件本人に関する死亡届書として処理され、その結果申立人主張の上野享の原戸籍中の亨の身分事項欄に妻トミヨの死亡事項が記載され、同戸籍中のトミヨの身分事項欄に、同女の死亡事項が記入され除籍されるに至つた。その後上野享について昭和三十二年法務省令第二七条により昭和三十五年十月十二日新戸籍が編製された。これには事件本人の記載がない。

(3)  而して事件本人は昭和三十六年五月○日満七〇才に達し養老年金(月額一〇〇〇円支給)の受給資格者となつたので右受給手続のため事件本人の戸籍抄本を八幡浜市役所に請求したところ、右のように戸籍上死亡したものとして取扱われたことが判明したのである。

以上の事実が認められるのである。

この事実によれば、八幡浜市役所備付の八幡浜○○○○番地上野享原戸籍中亨の身分事項欄の妻トミヨの死亡事項の記載、同原戸籍中のトミヨの身分事項欄の同女の死亡事項記載及び同女の除籍はいずれも真実に反し錯誤があること明らかであり、上野享の新戸籍に事件本人の記載がないのは錯誤に基く遺漏であるから右錯誤に基く記載事項の消除、除籍の回復を求める本件申立を相当と認め戸籍法第一一三条に則り主文のとおり審判する。

(家事審判官 渡辺宏)

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